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『P&G式 世界が欲しがる人材の育て方』(書評)

作者:和田浩子
発売日:2008-08-21

P&Gは言わずと知れた世界を代表する消費財メーカー。P&Gと言う名をしらなくとも、「パンテーン」「ダウニー」「パンパース」などP&Gが保有するメガブランドのその名を聞いたことのない人は、日本中はおろか世界を探しても稀ではないか。そんな世界中の消費者の心を掴んでやまないP&Gと言う企業は、どのような組織で、そしてどのような人材が働いているのかを、長年P&Gでキャリアを重ねた著者からの目線で書きあげられた本である。世界を圧巻するそのマーケティング力の源泉には、優れたマーケティング能力だけではなく、世界中の仲間をリードしていくリーダーシップを有するグローバルエリートが競争し合い、そして消費者から愛される「ブランド」を輩出しているのである。

書かれている内容はマーケティングに深く踏み込んだ話ではなく、P&Gという組織にはどのような人材がいるのか、その教育システムはどうなっているのか、なぜこれほどまでに世界中に経営者を輩出できたのか、というのを筆者の経験を交えて描かれている。そのため、将来P&Gのようなグローバルカンパニーで働いてみたいという大学生や若手社会人にとって、その第一歩を踏み出すための理解を深める助けになるはずである。

何より目を引くのは、その生々しい社内制度や筆者の経験である。よくぞここまで社内の情報を公開できるものなのだなと感心する。一社員がここまでの情報を公開することはきっと不可能であるし、それを裏打ちする経験や支持者もいないはずである。ましてやこれだけ細かな制度まで踏み込んだ話を持ち出すということは、当然それを許可されているという筆者のプレゼンスが前面に出ている。かなりの出世街道でキャリを積んだように思われる筆者だからこその特権なのか、P&Gというグローバルカンパニーの内情が手に取るように分かるのが何よりも面白みを感じさせる。

上述の通り、本書はマーケティング本でもなく自己啓発でもない。ただしP&Gという会社が世界を牽引するマーケティングカンパニーのため、随所でそのマーケティングの高さにも驚かされる。特に筆者の思い入れがあると思われるウィスパーというブランドに関しては、マーケティングを知らない人でもその秀逸さを感じざるをえない、何年たっても色褪せないマーケティング戦略を展開していたことに驚かされる。きっと本書を導入に、マーケティングの世界にも興味を持つきっかけになるはずである。

上記とは別の視点で特に印象的な内容は、P&GがP&Gたらしめる、そのリーダーシップ醸成力である。「ブランドマネージャには、見えないものを見る力が必要だと思います。育成するブランドのリーダーとして、将来目指すべきブランドのビジョンを、他の人が見えていなくても想像し、ヴィジョンの実現に向けて人を引っ張っていく力が必要です。」筆者のこのメッセージには、恐らくP&Gの全てが詰まっていて、そして想像を遥かに超えるレベルで、このマインドが社内で徹底されているはずである。だからこそP&G出身者は、世界中から引く手あまたの「リーダー」となり、エクセレントカンパニーとして数百年前から時代をリードし続けているのである。世界中の仲間とビジネスをしたい、そんな大志を抱く人にはきっと思いをくすぶられるはずである。

著者は、そんなP&Gで20数年間、女性パイオニアとして道を切り開いた第一人者である。今でも女性としてここまでのキャリアを積み重ねる人が少ないであろうと考えると、1980年代から世界を舞台に戦い、華を開かせてきた、著者の活躍ぶりには驚かされるばかりである。少し古い時代も含まれており今とはずいぶん環境は違うといえ、一社会人としても、そしてP&G出身としても、これだけの道を切り開いた人は数少ないはずである。キャリアウーマンを目指す世界中の女性のあこがれではないだろうか。

最後に、この本のタイトルの通り、P&G出身者は「世界で欲しがられる」存在である。百聞は一見にしかず、ではないが、もし世界で欲しがられる存在になりたいなら是非本書をのぞかれることを薦める。世界でも類を見ないマーケティングエリート軍団が、どのように輩出されていくのかが伝わってくる。きっと挑戦的な読者は、こんな環境に飛び込まずにはいられないだろう。